企画展開催予定ピックアップ
開催日:2024年10月30日(水)〜2025年3月23日(日)
川久保ジョイ Left is Right -45億年の庭と茹でガエルー
ロンドンを拠点に活動する現代美術家、川久保ジョイ(1979年、スペイン生まれ)は写真、映像、インスタレーションといった多岐に渡る実践を展開し、2014年頃からは、原子力発電所および原子力技術の利用に関する考察を巡る、フィールドリサーチを含めた一連の作品を発表してきました。本展では、川久保のこれまでの制作、および新作を含む作品群が、丸木美術館の大小の展示室と屋外の空間に展開されます。副題の一部である「45憶年の庭」とは、正に地球の年齢であり、そこから連想される人知を超えた時間軸が、本展を読み解くひとつのキーワードとなっています。
2011年の福島第一原発の事故以来、川久保は当地へ赴き、土の中にネガフィルムを埋め、ある一定の時間を置いた後、掘り返す、という実験を行ってきました。第一展示室に設置された10枚のポラロイドは、彼の繰り返したテストの一部であり、芸術的実践を通じて福島の大地に関与し続けた彼のコミットメントの記録でもあります。新作の映像作品《Slow Violencello》(2024年)は、青森県の六ケ所村を中心に撮影されました。森の中でチェロを弾く作家自身の姿が、16mmフィルムで撮影されています。環境問題の文脈で提起された「Slow Violence(緩慢な暴力)」という概念から着想された本作は、確実に進行しているが、認知されにくく対処も出来ない暴力というアイディアを巡りながら、本展の軸を形成しています。
鑑賞者はまた、映像作品に登場する様々な要素を展示室内で再発見することでしょう。映像内に登場する、スマホに表示された市場チャートは、台座の上に平置きされたウランの株価をモチーフとする新作の絵画とも呼応しています。「匂い」もまた媒体の一部である、と川久保はいいます。イギリス、日本の原子力施設周辺をはじめとした様々な土地で摘んだ植物から作家自身が抽出した、香りを放つエッセンシャルオイルが絵具には混ぜられており、絵画を構成する要素となっています。また、ネオン管を用いた作品は川久保の代表作のひとつですが、本展では屋内に数点、庭に1点が展示されます。展覧会のタイトルと響き合う「LEFT IS RIGHT」という文字 ーただし、左と右は逆になっていますー が展示室の壁面に点灯しています。自己言及性を有する川久保のネオン作品に、ジョセフ・コスースやブルース・ナウマンをはじめとする、コンセプチュアル・アートの系譜を見て取ることも可能でしょう。さらに作家が、原子力発電所の立地的な観点に見られる地政学的な問題 -すなわち、中央が周辺を搾取するという構造- を資本主義経済、および植民地主義のメカニズムに重ね、それらを指摘しつつ、さらに、ひっくり返すような象徴的なジェスチュアを重ねていることは、本展に多層的な構造を与えています。六ケ所村から持ち込まれた松ぼっくりは、新たな芽を出し、庭の一角で成長を続けています。展覧会を流れる様々な時間軸は、一人の人間の生より長い美術的実践の時間、それよりしばしば膨大である植物の時間、さらにウラン238の半減期でもある約45憶年、地球の年齢にも及びます。
本展の開催に際し、川久保と親交の深いオーストラリア人作家ガブリエラ・ハース氏によって、《アトミック・ボム・ローズ》というバラの品種が日本に持ち込まれ、挿し木で増やす試みが行われます。象徴性と示唆に富むこの行為は、しかしながら、罪悪感などみじんもなく、ただ成長を続ける植物に対し、善と悪という二項対立的構造を投影させ、一体何が正しく、何が正しくないといえるのか、といった第二の疑問を呈するようです。Left is Right ― 右と左は、西欧圏では、しばし正誤、あるいは善悪の象徴としても用いられる言葉です。英語ではさらに「right」は「真っ直ぐ」や「権利」を意味し、「left」は「残された」や「去った」という意味も持ちます。「Left is Right」とは一体何を意味するのでしょうか?本展タイトルに込められた川久保の哲学は、展示室内の作品群と多層的に響き合いながら、鑑賞者に問いかけ、その検証を求め、深く訴えかけています。
助成:公益財団法人ハーモニック伊藤財団、公益財団法人小笠原敏晶記念財団、The Great Britain Sasakawa Foundation
■シンポジウム
日時:2024年11月3日(日)14時〜16時
場所:原爆の図丸木美術館
参加無料(当日の入館券が必要です)
出演者:
ガブリエラ・ハースト (Gabriella Hirst)
アーティスト。シドニー出身、ベルリン在住。主に映像、彫刻、パフォーマンス、そして庭園を批評とケアの場として活用する作品を手掛ける。作品は、捕獲の政治、アーカイブシステム内での静止の幻想の維持、装飾的および装飾的な形態に内在する構造的暴力を探求している。
ラブリー・ウマヤム (Lovely Umayam)
作家・核政策研究者・Bombshelltoe Policy x Arts Collective創設者。Bombshelltoeは、アート、文化、歴史の交差点を探り、次世代のための核不拡散、軍備管理、軍縮を推進するための多分野にわたる研究団体。現在、国連軍縮問題局(UNODA)のコンサルタントとしても活動。
小林エリカ (Erika Kobayashi)
作家・アーティスト。著書は小説『トリニティ・トリニティ・トリニティ』(英語版 「Trinity, Trinity, Trinity」翻訳Brian Bergstrom(AstraHouse刊)は日米友好基金日本文学翻訳賞2022-2023受賞)、寺尾紗穂との音楽朗読劇にもなった『女の子たち風船爆弾をつくる』(文藝春秋)他。
川久保ジョイ(Yoi Kawakubo)
美術家・アーティスト。筑波大学人間学部心身障害学卒業。主なグループ展に「Picturing the Invisible」(王立地理院、ロンドン)、「ヨコハマ・トリエンナーレ 2020」(横浜美術館)がある。2015 年 VOCA 展大原美術館賞、第 10 回 shiseido art egg 入選等の受賞がある。
岡村幸宣(Yukinori Okamura)
原爆の図 丸木美術館学芸員。
■ワークショップ
ガブリエラ・ハーストによるバラ接ぎ木ワークショップ「How to Make a Bomb」
日時:2024年11月3日(日)11時〜12時30分
場所:原爆の図 丸木美術館
参加無料(当日の入館券が必要です)
事前予約制(こちらの予約フォームより入力ください)
アーティストのガブリエラ・ハーストによるプロジェクト「How to Make a Bomb」の一環として、希少なバラの品種「アトムボム・ローズ」の繁殖方法、バラ接ぎ木を実際に行いながら学び、園芸と核の歴史のつながりについて学ぶワークショップを行います。