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企画展終了

開催日:2013年11月12日(火)~2014年2月8日(土)

木下晋展 生命の旅路

103年の闘争Ⅰ 2003年

10Hから10Bまでの22段階の鉛筆を駆使し、「最後の瞽女(ごぜ)」といわれた小林ハル、元ハンセン病患者の詩人・桜井哲夫など、過酷な運命を生きた人々を緻密な線描で表現する木下晋。一本の皺も逃さず描き込むその作品の数々は、人間の生のただごとでない重みを深く問いかけるものとして、観る人の心に強く残ります。
2013年6月、彼はその原点ともいうべき絵本『はじめての旅』(福音館書店)を出版しました。放浪癖のある実母に手を引かれ、少年時代に体験した富山から奈良までの流浪の旅の物語です。
今展では、その絵本原画を出発点にして、16歳でクレヨンを油彩代わりに使用して描き、自由美術協会展に初入選したデビュー作《起つ》をはじめ初期油彩画21点、さらに長い苦悩を経てたどり着き、彼の代名詞ともなった鉛筆画の数々へと続いていく、木下晋の長い旅路を紹介いたします。
(この展覧会は、2014年春に沖縄県立博物館・美術館に巡回しました)


起つ 1963年
視る 2011年
はじめての旅(絵本原画) 2013年

いのちの年輪 木下晋の世界に

松永 伍一

木下晋の鉛筆による細密表現に初めて向き合った人は、そこから放射される気のごときものに一瞬たじろぐことだろう。絵に吸い込まれながら同時に拒否されるこの不思議な戸惑いなくしては、かれの思想、かれの世界に出会えないと気がつくのに時間はかからない。
木下晋はなぜ絵具に頼らず鉛筆に賭けたのか。答えは簡単である。ひたすら人間の内面・その闇を抉ることをおのれに課してきたからだ。邪道ではない。多くの画家がそれを志しつつも身を躱してきただけのことである。かれは敢てその困難を選んだ。そしていま木下晋は私たちの前に屹立している。
かれが描いてきた人物―母親をはじめ祖母、妻、娘などの肉親の他、越後瞽女や老人、ニューヨークのホームレス、インドの老人などは、それぞれ職種も異なり、環境も違っていながら、私たちに低い声で慎みを秘めて問いを発する。「どう生きてきたか」「なぜ生きるのか」「生きる値打ちがあったのか」と。しかし答えは強要しない。まず、それを描いた画家が密かに復誦する。それに応じて私たちは画面に緻密に引かれた線や陰影からそれらの声を読み取る。まさにシャーマンの口寄せにうなづくように。絵の人物たちの内に蔵したいのちの年輪が匂い立つのはその瞬間だ。うれしいことに鉛筆の色が人間の彩り
に変わる。絵具の色では太刀打ちできない鮮烈な人生という彩りに。辛苦を織りあげた人物はその熱いエネルギーを、老残の身は限られた時間を紡ぎながら内深く秘めたいのちの光沢を放つ。私たちはその恵みに浴することができるのだ。
思えば木下晋はおのれのいのちの力で他者のいのちを執拗に鉛筆の芯で追及してきた。それは対象を写実的に描くことでは決してなかった。換言すれば、描いたものの裏側から描けないものを幻影のごとく立ち昇らせることであった。人間を表現するとはそういうことだ。その実践者を間違っても「写実の画家」と呼んではならない。

(詩人、2007年東御市梅野絵画記念館「生の軌跡 1963-2007 木下晋展」より)


会期中の催し物

オープニングトーク「木下晋の旅路 はじめての旅から合掌図まで」
11月16日(土)午後2時
出演:木下 晋(画家)、 岡村 幸宣(原爆の図丸木美術館学芸員)

記念対談「木下晋の仕事をめぐって」
12月21日(土)午後2時
出演:木下 晋(画家)、 水沢勉(神奈川県立近代美術館館長)

※いずれも参加自由(当日の入館券が必要です)
 11/16、12/21は、午後1時に東武東上線森林公園駅南口に丸木美術館の送迎車が出ます。


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