企画展・イベントExhibition & Event

企画展開催予定

開催日:2022年3月11日(金)~4月10日(日)

李 晶玉 SIMULATED WINDOW

Window1(習作) 2022/パネルに紙、鉛筆、墨、アクリル/420×594㎝


SIMULATED WINDOW

第二次世界大戦の歴史や問題について、自身の中に複数の視点が半ば矛盾するように存在していると感じることがある。
私は在日朝鮮人3世で朝鮮学校で民族教育を受けてきたが、生まれも育ちも日本の東京なので、日常的には日本のメディアやカルチャーに触れて育っている。戦後の日本の抱えるトラウマ的な記憶や、それに根ざす表現や作品は自身の制作と切り離せないほど内面化されている。

今回、個展の構想を練ってリサーチや取材を続けるなか、自身の視点の置き場がどこにもないと感じた。
「被」でも「加」でもなく、そのどちらからも微妙にズレていて、外野に出されている第三者のような立ち位置への感覚。
一方、同時代を生きる、戦争を知らない多くの世代が持つ歴史上の事実への軽薄さやサブカル的想像力、もしくはフィクションとも言えるストーリーへの陶酔、それらは所属に関係なく在日である自身も持っていると感じる。
歴史や戦争を想像しようと試みるとき、なにかの物語に回収されずにそれをすることは難しい。
乾いた事象に価値を与えようとしてしまう。

展示タイトルの「SIMULATED WINDOW」とは、アメリカ・ユタ州のウェンドーバー空軍基地にある、広島に原爆を投下したB29戦闘爆撃機「エノラ ・ゲイ」の格納庫の壁に残された、軍兵士たちによる落書きである。
この図自体に知名度はまったくなく、私はこの落書きの存在をChim↑Pomの書籍『なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか』に寄せられた椹木野衣氏によるテキスト『かつてエノラ ・ゲイから見えた「空」—Chim↑Pomの「ピカッ」と、回帰する原爆投下者たちの窓』で知った。(以下引用)
「いま、私の手元には米国の写真家、リチャード・ミズラックが撮影した一連の写真がある。…そのなかに、一枚の特に目を惹く写真がある。そこで、画用紙を思わせる白いボードのほぼ中央に描かれているのは富士山だ。その左には朝日(おそらく)の昇る山々。その山影をかすめて戦闘爆撃機のような機影が見える。…ちなみに、この落書きの全体にはタイトルが付いている。「SIMULATED WINDOW」——つまり、これは絵ではなくて窓なのだ。」(pp53-55)

windowの語源は「wind(風)+auga(目)」である。
また、ローマ最大のドーム建築であるパンテオンの天窓は、採光と換気を目的としてドームの中央部分が「目」のようにぽっかりとあいていて「oculus」(目)と呼ばれている。
私は作業の中で、なにか大きな構造をあぶり出すような、形骸化して内側が空洞になったものの空(くう)を描いていって外殻や骨格が現れるような、そんな作用を期待して作業に入ることが多い。
B-29の半球状のコックピットと、鉄骨だけ残されたドームの内側からの風景が重なったように見えた時に視点を得たような感覚があった。
窓に見立てたいくつかの視点、想像しうる風景がフィクションでしかあり得ないという制限の内側から、現代に生きる人間としての想像力の形を提示したい。

李 晶玉

Window2(習作) 2022/パネルに紙、鉛筆、墨、アクリル/420×594㎝

李 晶玉 Ri Jong OK

1991年東京都生まれ。2018年朝鮮大学校研究院総合研究科卒業。在日朝鮮人3世という立場から、国家や民族に対する横断的な視点を足がかりに制作を展開している。古典絵画からの構図の引用や象徴的なモチーフを用いてマジョリティの文脈や構造にアプローチをかけ、コラージュなどの手法を用いて複層的な構造の平面作品を制作している。主な展示に「在日・現在・美術」展(2014)、武蔵美×朝鮮大「突然、目の前がひらけて」(2015)、「VOCA2020」(2020)、「平成美術:うたかたと瓦礫デブリ 1989–2019」(2021)、個展「記号の国」(2021)など。


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