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企画展終了

開催日:2023年5月20日(土)~6月25日(日)

久保舎己木版画展 ひとがゆく

ひとがゆく 2022年


丸木美術館での展覧会に向けることば


久保 舎己


私はご覧のようにくたびれた老人です。ステージ4の胆管ガンの診断を受けていますがジッとしておれないのです。ガンの宣告を受ける前、私は2022年7月10日に丸木美術館に展覧会の開催を希望していました。それが実現したのです。ですが、オープニングまで生きているかどうか分かりませんので、このようなメッセージを作っておきました。

世の中を見ていると政権を握っている保守政党などが数を誇って私利私欲の無責任な政策を行っています。軍備を増強していく一方で命を守る農業、福祉、医療、教育などが軽んじられています。これまでに憲法をかってに解釈、改悪し憲法9条を無視して戦争をする準備をしています。私は何の力もありませんが黙って見過ごせないのです。何故このようなことになったのでしょう。理由は簡単です戦争を準備する政党を選挙で選んできたからです。また私達市民が政治に無関心という無責任な態度をとり続けてきたからです。私達の国は先の戦争で他国に侵略して殺傷し、破壊してきました。その挙句多くの犠牲者を出して敗戦したわけです。その教訓から多くを学んできたはずでしたが、そうではなかったのです。私が絵による表現を始めてから社会が不穏な傾向に向かう兆しを感じるたびごとに、その不安感や憂鬱感、焦燥感またその恐れから沸き起こってくるイメージを作品にして来ました。もやもやとした気持ちから何かしなくてはと思ったのです。そんな思いから幾つか作った作品を並べた「私の戦争画展」なるものをこの間、3回やってきました。美術表現による社会批判は本当に無力です、しかし何もしないではいられなかったのです、孤立を恐れず連帯を求めると言った人がいましたが私もそうです。自分のためでもありました。戦争は悪です。絶対に戦争をしてはなりません。自分の命、人の命、皆の命がつながって人間の社会があるのですから命の大切さを思ってほしいのです。命が1番大切です。お金ではありません。この丸木美術館を造られた丸木位里・俊の「原爆の図」は、お二人が共に描かずにはいられないという強い思いから描かれた作品であります。多くの命を一瞬にして奪った原爆の恐ろしさを伝えたい、そして2度とこのような惨劇をくりかえしてはならないという願いがこめられたものだと思います。私は今回の展示に「ひとがゆく」を持ってきました。私の版画作品のテーマは人間とは何か自分とは何かであります、私が生まれて育ったこの世界とその歴史、歩んできた社会と時代は何であったのか、この日本人はどのように歩いてきたのか。そして、その精神構造、集団的無意識や又、残念なことですがよく指摘される没個性、主体性が乏しく自立、自治の出来ない日本の民族性は何処から来て何処へ行くのか、私はこの作品を通じて新たに考えてみたかった、私に明確な答えがあるわけではありませんが、考え続ける他ありません。より良い世の中にしていくのは皆さん一人一人の自由な思索、表現の想像的個性から生まれてくると信じています。確実に新しい遺伝子を持った子供たちに良いバトンを手渡していきたいものだと思っています。私の勝手な希望や願望ですがお伝えしておきたいと思いました。ここ丸木美術館が何時までも私達の願い、反戦と平和を発信し続ける生きた美術館であることを望んでいます。(2023・3・13)


つるされしカラス 1981年 

潜水艦の闘い 2000年

ペケを背負った人がゆく 1997年

黒い水 2011年

久保 舎己(くぼ・すてみ)
1948年三重県津市生まれ。66年東京寛永寺坂美術研究所に学ぶ。75年木版画を独学ではじめる。三重を中心に、愛知、東京、新潟などで発表。2018年ドイツ・ブッフハイム美術館で企画展。刊行物に『久保舎己 版画集 1977-2012』(ドイツ語/英訳・日本語訳あり)、『ホシヒト ある“個”の軌跡―久保舎己木版画集』(言水制作室)、『雨を喰う人 久保舎己木版画集』(編集・発行人 金子遊)がある。

■関連書籍

展覧会カタログ「久保舎己 ひとがゆく」
A5判モノクロ68頁 頒価1100円(税込) 出品作品182点収録

執筆:久保舎己、岡村幸宣(原爆の図丸木美術館)

通信販売をご希望の方は、下記の郵便振替口座に希望部数×1100円+送料(2冊までは370円)をご入金ください。その際、かならず名前、住所、電話番号を明記のうえ、通信欄に「久保舎己展図録」とご記入ください(ご記入できない場合は、丸木美術館のお問い合わせフォームにてお知らせください)。
郵便振替口座 00150-3-84303 公益財団法人原爆の図丸木美術館


反戦・平和木版画で訴え 東松山・丸木美術館
 ―2023年5月28日 読売新聞 埼玉版


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