企画展終了
開催日:2013年7月13日(土)~9月8日(土)
坑夫・山本作兵衛の生きた時代~戦前・戦時の炭坑をめぐる視覚表現
共催:作兵衛(作たん)事務所、ポレポレタイムス社
後援:夕張地域史研究資料調査室、みろく沢炭鉱資料館、常磐炭田史研究会、コールマイン研究室
2011 年5 月、田川市石炭・歴史博物館、福岡県立大学が保管する、故・山本作兵衛の炭坑絵画589 点と日記・メモ類108 点 が、国連教育科学文化機関(ユネスコ)により「メモリー・オブ・ザ・ワールド」(MOW、通称・世界記憶遺産)に登録されました。それを契機として、現在、炭坑(鉱)への関心が寄せられつつあります。
作兵衛は、炭坑を見聞きすることがなくなる孫たちのため、「炭坑とはどういうもので あったか」を絵画として描き残しました。彼が自宅を訪れた人々に炭坑画を持ち帰らせたのは、世代を越えて炭坑への関心が広がるのを期待していたからではないでしょうか。
世界記憶遺産登録を機に、作兵衛の炭坑画の再評価が進められるのは喜ばしいことです。その一方、他の画家や写真家たちの炭坑を巡る表現を総合的に見渡し、それぞれの時代、それぞれの産炭地の炭坑イメージや表現に込められた意味を読みなおすことも重要です。
本展では、作兵衛が近しい人たちに遺した「炭坑画」をはじめ、同じ筑豊を描いた原田大鳳、井上為次郎、島津輝雄、山近剛太郎、常磐を描いた大宮昇らの絵画作品や、萩原義弘撮影による、戦時の軍需生産美術推進隊が全国に制作した坑夫像、大正期に町田定明が撮影した『三井三池各事業所写真帖』ほか各産炭地の主要石炭会社の写真帖など、戦前・戦時に生み出された各地の炭坑をめぐる幅広い視覚表現を検証します。
それらの表現からは、炭坑労働の実情や問題点の啓蒙、国家的要請での石炭増産体制の訴え、炭坑生活へのいとおしみなど、さまざまな思いが読み取れるはずです。
戦後、相次ぐ閉山によって石炭産業の火が消え、産炭地を除けば、これらの視覚表現はほぼ顧みられることがありませんでした。今こそ、作兵衛の「孫たちへの願い」を思い起こし、多くの炭坑の表現者たちが、炭坑をどのように受け止め、世に伝えようとしてきたのか、遺された作品群に目を凝らし、耳を澄まし、頭を巡らす時ではないでしょうか。
会期中の催し物
オープニングコンサート+トークイベント「炭坑の視覚表現をめぐって」
○7月13日(土)午後2時
コンサート出演:緒方もも(ヴァイオリン、山本作兵衛曾孫)、奥野幸恵(ピアノ)、清水英里子(ヴァイオリン)
トークイベント出演:鳥羽耕史(早稲田大学教授)+保坂健二朗(東京国立近代美術館主任研究員)+正木基(casa de cuba 主宰)
ギャラリートーク1「炭坑を語る」
○7月27日(土)午後2時
出演:菊地拓児(コールマイン研究室)+萩原義弘(写真家)+ヤリタミサコ(詩人)
ギャラリートーク2「山本作兵衛を語る」
○8月13日(火)午後2時
出演:井上忠俊(作兵衛(作たん)事務所所長)+上野朱(古書店主)+緒方惠美(作兵衛(作たん)事務所代表代理)+本橋成一(写真家・映画監督)
「入山採炭ほかスケッチブック」公開作品調査-「入山採炭アルバム」と大宮昇「入山採炭ほかスケッチブック」・『炭山画譜』・『石炭を生む山』をめぐって」
○8月20日(火) 午後2時~3時30分
ゲスト:大宮真弓(大宮昇ご子息・同志社大学生命医科学部教授)+萩原義弘 (写真家)
聞き手:杉浦友治(いわき市立美術館)、正木基 (本展企画委員)、岡村幸宣(原爆の図丸木美術館)
美術家・大宮昇氏が1935年、いわきに長期滞在し、入山採炭の内外を仔細に描いた120点のスケッチブック4冊が、展覧会オープ ン直前に新発見されました。一人の美術家が、これほど炭坑取材のスケッチを残した事例はなく、また、その丁寧な描写によって記録性の高さも注目されるものとなっています。このたび、その全容をあきらかにすべく、本作品群に関心を持つ学芸員の方々と、120点一点一点を鑑賞調査する 「公開作品調査」を行うことにいたしました。つきましては、ご子息の大宮真弓氏、常磐炭田を撮り続けている写真家・萩原義弘氏にご同席いただき、作品一点一点へのコメントや感想をお聞きしながら、参加者全員での意見交換も図ります。
尚、このスケッチブックは、展覧会中、アクリルの覗きケース中に収められているため、全点を鑑賞するただ一度の機会となります。
特別ギャラリーツアー
○8月29日(木) 午後1時~午後4時半 特別ゲスト:中込潤(直方谷尾美術館学芸員)
直方市の直方谷尾美術館で、筑豊の炭坑絵師たちの調査・研究もされている中込潤学芸員が、会場で、本展企画委員の正木基(casa de cuba 主宰)とともに、筑豊の炭坑絵師たちを中心に自由にお話ししています。
今野勉氏と炭鉱表現を語る
○9月4日(水) 14時~15時30分
特別ゲスト:今野勉(演出家、脚本家、テレビマンユニオン取締役)+正木基(本展企画委委員)
お育ちになった夕張市登川炭鉱についてのお話、炭鉱の民話を取り上げたNHKスペシャル「地の底への精霊歌 炭鉱に民話の生まれる時.」の裏話、山本作兵衛翁などの作品、本展覧会の感想などについて、今野勉氏と本展画委員並びにご来場の皆様との「公開語らい」を行います。
今野 勉
秋田県生まれ、北海道夕張市登川炭鉱に高校まで在住。1959年(昭和34年)TBS入社。1970年(昭和45年)に日本初の独立系テレビ番組制作会社・テレビマンユニオン創立。1998年(平成10年)には長野オリンピックの開会式・閉会式のプロデューサー。
TV作品:1965~68年 シリーズドラマ「七人の刑事」(TBS、40本) 放送作家協会演出者賞、1970~76年 ドキュメンタリー「遠くへ行きたい」(YTV、44本) ギャラクシー選奨、1993年 ドキュメンタリー・NHKスペシャル「地の底への精霊歌」 ギャラクシー選奨、1995年 ドキュメンタリードラマ・NHKスペシャル「こころの王国~童謡詩人金子みすゞの世界」(NHK)芸術選奨文部大臣賞、2008年 日中戦争秘話 ふたつの祖国をもつ女諜報員「鄭蘋如(てんぴんるう)の実像」(YTV)民間放送連盟賞優秀番組賞等多数
著作:『お前はただの現在にすぎない-テレビになにが可能か』 (荻元晴彦・村木良彦との共著、2008年、朝日文庫)、『テレビの青春』 (NTT出版、2009年)等多数。
トム・アレンツ氏と炭鉱を語り合う
○9月8日(日) 午後2時~3時30分
ベルギーから来日されるトム・アレンツ氏と会場を歩きながら、ベルギーやヨーロッパの炭鉱について、日本の炭鉱を訪ねた印象などのほ か、本展の炭鉱表現を見た印象などをお聞きし、また、ご来館の皆様と炭坑と炭坑美術について語り合います。
トム・アレンツ Tom Arents
1984年ベルギー生まれ(28歳)。2012年リューバン・カトリック大学日本学科修士課程卒業。修士時にベルギーのケンペン炭田と空知の石狩炭田の比較研究、現在は日本の石狩炭田と筑豊炭田の比較研究中。
国際産炭地ネットワーク・産炭地プロジェクト NPO法人Het Vervolg/COALFACE メンバー