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開催日:2018年9月15日(土)〜10月8日(月/祝)

徳応寺版「原爆の図」模写 特別展示 

愛知県岡崎市、名鉄・美合駅に近い浄土真宗の徳応寺の本堂には、毎年8月になると、子どもたちの手による11点の「原爆の図」模写が、鎮魂と戦争体験の継承の思いを込めて公開されています。
寺に残る箱書きによれば、1956年5月、岡崎市立男川小学校の教師だった宇野正一(房生)が5年生に戦争の話をしたところ、「原爆はすごく景気が良い」との反応があり、戦慄した彼は翌日に「原爆の図」を見せたそうです。その結果、敗戦の年に生まれた子どもたちの心に原爆の恐ろしさが沁み、模写にとりくむようになったとのこと。当時の新聞記事には、30点ほどの模写を制作する構想だったと記されています。

部分描写で、絵によって拡大の比率が異なること、30点という作品数の多さから、この模写は青木文庫版『画集 原爆の図』(1952年発行、第1部~第5部所収)の口絵をもとにしていると推測されます。
当時、丸木位里・俊夫妻には手紙で模写の許可を取ったそうで、俊は1985年7月25日付『中日新聞』の記事で「そのころ、男川小学校の生徒の平和への意識の高さに感銘を受けた」と回想しています。
子どもたちは、シジミを拾って売るなどして墨や紙などの画材を買い、6年生になっても模写を続け、映画「毎日国際ニュース」で取り上げられるなど次第に話題になっていきましたが、やがて教育委員会から「思想的」との批判があり、制作は中断。焼却されるところを徳応寺の住職だった故・都路精哲が引き取り、軸装して木箱に入れ保管したおかげで、模写は残されることになりました。そして1985年に約30年ぶりに公開され、以後、住職は代替わりしながらも、毎夏の公開を続けています。

「描く」という身体的な体験で、非体験の「記憶」を継承する、貴重な1950年代の実践例であるとともに、オリジナルの「模写」にとらわれない、奔放で迫力のある表現に惹きつけられます。
同時開催の加茂昂展では、広島の被爆した市民が描いた「原爆の絵」の模写が展示され、9月8日から広島市現代美術館で開催される「丸木位里・俊 《原爆の図》をよむ」展では《原爆の図》の「本作」と作者の手による模写である「再制作版」が比較されます。
丸木美術館では、この機会に徳応寺版「原爆の図」模写を展示することで、「模写」のもつ豊かな可能性を提示できるのではないかと考えています。
自由でユーモアにあふれた、不思議と明るい、それでいて悲しみも伝わってくる徳応寺版「原爆の図」模写を、ぜひご覧ください。


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